コラム ~セラピストの皆様へ~
立ち上がり動作練習
立ち上がり動作練習では、理学療法士・作業療法士が「なんとか立てる」レベルの患者さんに対して、
介助下あるいは監視下で練習を行うことが多いと思います。
これは、私が理学療法士になりたての頃の、少し恥ずかしいけれど忘れられない経験です。
当時、立ち上がり動作中にふらつきはあるものの、
なんとか自力で立ち上がれそうな片麻痺の患者さんの練習を担当していました。
私は一生懸命でした。
動作を観察し、頭の中で問題点のストーリーを組み立て、
患者さんの真正面、しかもかなり近い位置に立って介助をしていました。
「股関節の屈曲に伴って体幹が前傾し、その後に膝関節が伸展して殿部離床…」
そんなふうに、動作の流れを頭の中で、時には口に出しながら練習を行っていました。
ところが――
患者さんが、どうしても立てないのです。
何度か試しても、膝がなかなか伸びず、途中で“ドスン”と尻もちをつくように座ってしまう。
「なぜ…?」
でも、その時ふと感じました。
これは患者さんの問題ではない、と。
当時の私は、自分の介助や立ち位置を客観的に確認するため、練習中に姿見の鏡を見ることがありました。
何気なく鏡を見た、その瞬間――
すべてがわかりました。
私は、患者さんの真正面に近づきすぎていて、
股関節の屈曲に伴う体幹前傾の動線そのものを、自分の体で塞いでいたのです。
体を前に倒したくても倒せない。
その状態で「膝を伸ばしましょう」と促していたのですから、
立てるはずがありません。
私は、自分が患者さんをどう“動かしているか”を想像できていなかったのです。
そこで、患者さんが安心して体幹を前傾できるように、
私自身が一歩下がり、十分なスペースを確保しました。
すると――
立ち上がり練習は、驚くほどスムーズに成立しました。
その積み重ねの中で、患者さんは最終的に立ち上がり動作を自立して行えるようになりました。
この経験から、私は強く学びました。
セラピストの立ち位置ひとつで、
患者さんの運動を“助けることも、邪魔することもある”ということを。
治療に集中するあまり、
知らず知らずのうちに患者さんの動きたい方向、
運動の流れを遮ってしまっていることがあります。
だからこそ、
・鏡で自分たちの治療風景を確認する
・動画で振り返る
そうした機会は、患者さんの動きだけでなく、
セラピスト自身の姿勢やハンドリングを見直すための、最高の学びになります。
正直、少し恥ずかしいです。
でも、その恥ずかしさの先には、きっと今より良い治療が待っています。
そしてその気づきは、
患者さんの「できた」という笑顔につながっていくのだと思います。